大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和56年(行コ)13号 決定 1982年5月27日

控訴人(第一審被告) 浦和税務署長 傘木実夫

右指定代理人 桜井登美雄

<ほか三名>

被控訴人(第一審原告) 岡田力

<ほか三名>

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 関根稔

同 畑仁

主文

被控訴人らの本件申立をいずれも却下する。

理由

第一昭和五七年一月二六日付準備書面に基づく主張について

一  控訴人指定代理人が、昭和五七年三月三〇日午前一〇時の当審第五回口頭弁論期日において、その同年一月二六日付準備書面に基づいて、「原審において、被控訴人らが、亡岡田染吉は昭和五〇年二月一日訴外株式会社岡田に対して有する貸金債権金一、五八七万七、九四八円及び未収土地代金債権金六六〇万九、〇六〇円を免除した、と主張したのに対し、控訴人は、これを認める旨を答弁したが、控訴人は、あらためて右答弁を撤回し、被控訴人らの右主張事実を否認する。」旨の陳述をしたところ、被控訴人ら訴訟代理人は、右の陳述は故意又は重大な過失に基づく時機に後れた攻撃防禦方法であり、かつ、訴訟の完結を遅延させるものであるから、民訴法一三九条一項によりこれを却下されたい旨を申立てた。

二  そこで、先ず、本件陳述が時機に後れたものということができるかどうかにつき検討するに、本件陳述がなされるに至った本件審理の経過については、本件記録によれば、原審において、昭和五四年四月五日本件訴えが提起され、同年七月四日から昭和五五年一二月一七日までの間計八回の口頭弁論期日が重ねられたうえ、弁論が終結され、昭和五六年二月二五日原判決の言渡がなされ、次いで、当審において、同年六月一一日から昭和五七年三月三〇日までの間計五回の口頭弁論期日が重ねられたこと、この間被控訴人らは原審第一回口頭弁論期日(昭和五四年七月四日)において、訴状に基づき、控訴人が被控訴人らに対し、昭和五二年一〇月三一日付でした各相続税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分につき取消を求める旨及びその請求原因として、(1)被控訴人ら被相続人亡岡田染吉(昭和五〇年七月三一日死亡)は、その同族会社たる訴外株式会社岡田に対し、債権合計金二、二四八万七、〇〇八円を有していたが、昭和五〇年二月一日これを免除したから、被控訴人らにかかる各課税価格にはこれを算入すべきではないのに、控訴人は、右処分において、右債務免除につき、相続税法六四条を適用してこれを否認し、右債権額を被控訴人らにかかる各課税価格に算入したのは違法であること、(2)また、亡染吉は、昭和五〇年六年一四日訴外中部不動産株式会社から同社所有の与野市中里九五番一宅地五四四平方メートルを買受ける旨を契約し、その所有権を取得したものであるところ、被控訴人寿孝においてこれを相続したから、被控訴人寿孝にかかる課税価格には、右宅地の相続開始時の価額金三、八五四万〇、八一一円を算入したうえ、手付金二、〇〇〇万円、未払残代金四、五〇五万六、二〇〇円及び不動産取得税金三九万九、七五〇円を控除すべきであるのに、控訴人は本件処分において、右売買契約は直ちに右宅地の所有権移転の効果を生ぜしめるものではなく、したがって、亡染吉が右契約にかかわらず、いまだ右宅地の所有権を取得していなかったものと認定したうえ、被控訴人寿孝にかかる課税価格に右手付金二、〇〇〇万円を算入したにとどめたのは違法である旨を陳述したところ、控訴人は、同第二回口頭弁論期日(昭和五四年九月一二日)において、その同日付準備書面に基づいて、右(1)の点については、亡染吉が右被控訴人ら主張のころ訴外株式会社岡田に対し被控訴人ら主張の債権につき免除を約したが、右債務免除については、相続税法六四条を適用してこれを否認しうべきものであり、本件処分においては、控訴人はこれを適用して右債務免除を否認したのであるから、被控訴人らにかかる各課税価格に右債権額を算入したことは適法である旨をまた、右(2)の点については、亡染吉は右宅地所有権移転請求の債権を取得したにすぎなかったから、控訴人の本件処分は適法である旨を陳述したこと、原判決は右債務免除の事実は当事者間に争いのないものとしたうえ、右債務免除については相続税法六四条を適用すべき場合に当たらないから、控訴人において右債務免除につき相続税法六四条を適用してこれを否認し、被控訴人らの各課税価格に右債権額を算入したことは違法である旨、また、亡染吉は右宅地売買契約により右宅地所有権移転請求の債権を取得したにすぎなかったものと認定したうえ、本件処分を適法である旨を判示したものであること、これに対し、控訴人は本件控訴を提起し、また被控訴人寿孝も別に控訴を提起し(当庁昭和五六年行(コ)第九号事件)、併合のうえ、当審第一回口頭弁論期日は同年六月一一日に開かれ、以来、口頭弁論期日を重ね、昭和五七年三月三〇日の第五回口頭弁論期日に至ったが、その間、控訴人は当審第二回口頭弁論期日(昭和五六年九月三日)において、その同年六月一一日付準備書面に基づき、また、同第三回口頭弁論期日(同年一〇月二二日)において、その同年九月三日付準備書面に基づき、それぞれ従前の主張を維持、敷衍する趣旨の陳述をしたこと、控訴人は同第五回口頭弁論期日(昭和五七年三月三〇日)に至り、その同年一月二六日付準備書面に基づいて本件陳述をしたものであること、その間、右第一、二審の口頭弁論を通じて、当事者双方はいずれも、右亡染吉から訴外株式会社岡田に対する債務免除の事実の存否については争いのないものとして当然何らの立証をせず、また、控訴人において本件陳述を提出するにつき、訴訟手続上、支障となる事情は何ら存しなかったことが認められる。

以上の本件訴訟の具体的進行状況からみると、控訴人には本件陳述をそれ以前に提出することが期待できる客観的事情が存したものというのが相当であるから、本件陳述は時機に後れた攻撃防禦方法であるものといわざるをえない。

三  そして、本件記録によれば、右債務免除の存在を前提とした場合の相続税法六四条の適用の可否の争点については、既に当事者双方において主張立証を終っていることが認められ、本件陳述を採用して審理をすることになれば、被控訴人らにおいて右債務免除の事実の存在につき、あらためて立証を準備提出しなければならず、続行期日を必要とする訴訟状態になることは前記本件審理の経過に鑑みてたやすく考えられるから、そのため本件訴訟の完結を遅延させるものということができる。

四  しかし、更に、控訴人において、本件陳述を時機に後れて提出したことにつき、故意又は重大な過失があったといえるかどうかにつき検討するに、控訴人の本件陳述が時機に後れたものというべきことは前示のとおりであり《証拠省略》によれば、控訴人は、本件処分に当たり、右債務免除の事実の存否につき、その調査を経たうえ、右債務免除の事実の存在を前提として本件処分をしたものであること、控訴人は当審第三回口頭弁論期日以降においてあらためて右債務免除の事実の存否につき再調査した結果、前記のように右陳述を撤回しかつ右債務免除の事実を否認する訴訟行為に出ることが妥当とするに至ったことが窺われ、控訴人がその間、今回したような再調査をなすことを妨げられていた事情の存することを認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、他方控訴人にとって自ら関与したものではない右債務免除については、その事実主張に対する認否をなすに当たり、あらかじめ十分な調査をなしえない事情があるものといわなければならないところであり、弁論の全趣旨からみて、控訴人としては、亡染吉から訴外株式会社岡田に対する右債務免除につき相続税法六四条を適用してこれを否認しうべきものであるとの主張が正当と信じたため、いったん右債務免除の事実はこれを認める旨の陳述をしたところ、第一審において右適用につき自己の見解と異なる判断を受けたため、再調査のうえ当審において本件陳述をなすに至ったものと認めうるところであり、これらを併せ考えると、控訴人指定代理人の本件陳述の提出が時機に後れたことにつき、故意又は重大な過失があるものと解するのは相当ではないというべきである。

第二昭和五七年三月三〇日付準備書面のうち予備的主張(その二)について

一  控訴人が、昭和五七年三月三〇日午前一〇時の当審第五回口頭弁論期日において、その右同日付準備書面中予備的主張(その二)記載に基づいて、「被控訴人ら主張のように、亡岡田染吉から訴外株式会社岡田に対する本件債務免除があったとしても、相続税法九条本文の適用の結果、これによる受贈益を被控訴人らの相続税の課税価格に算入することになるから、この範囲における控訴人の本件更正処分は適法である。」旨の陳述をしたところ、被控訴人らは、右の陳述は、故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防禦方法であるから、民訴法一三九条一項によりこれを却下されたい旨を申立てた。

二  しかしながら、控訴人指定代理人の本件主張が時機に後れた攻撃防禦方法といえるとしても、本件については、亡岡田染吉から訴外株式会社岡田に対する本件債務免除の事実の存否を廻り更に審理を継続することを必要とする状況にあるところ、控訴人指定代理人の本件主張については、主に、相続税法九条の解釈が問題とされ、立証については、控訴人指定代理人において訴外株式会社岡田の決算書をもってする態度を明らかにしているところであることからすれば、控訴人指定代理人の本件主張は、いまだ本件訴訟の完結を遅延せしめるものに当たるものということはできない。

第三結論

以上に説示したとおり、控訴人の昭和五七年一月二六日付準備書面及び同年三月三〇日付準備書面のうち予備的主張(その二)に基づく陳述は、結局、民訴法一三九条一項により却下する要件を具備しないものといわなければならない。

よって、被控訴人らの本件申立はいずれも理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 磯部喬 大塚一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例